はじめに:定年後の住宅ローン、どうする?
「定年退職を迎えたら、退職金で住宅ローンをスッキリ完済したい!」
そうお考えのシニア世代の方は多いのではないでしょうか。最近は、住宅ローンの返済期間を長めに設定し、定年後も返済が続くのが一般的になっています。
でも、本当に退職金の全額をローンの返済に充ててしまって大丈夫でしょうか?
大切な老後資金の使い方を間違えると、かえって生活が不安になる危険性もあります。この記事では、退職金で住宅ローンを返済するメリットとデメリットをわかりやすく解説し、あなたに合った賢い選択をするためのヒントをお届けします。
こんな方にぜひ読んでいただきたいです
- 住宅ローンが定年後も続くことに不安を感じている方
- 老後の生活資金について真剣に考え、ローンの返済方法を検討したい方
- 退職金をどのように使うか悩んでいる方
知っておきたい!定年後の住宅ローンは一般的

かつては「定年までにローンを完済」が理想でしたが、現在は状況が変わっています。
【住宅購入とローンの平均期間(参考:国土交通省 令和4年住宅市場動向調査)】
| 区分 | 平均購入年齢 | 平均返済期間 | 
| 全平均 | 40.8歳 | 約31.1年 | 
| 注文住宅 | 39.5歳 | 33.7年 | 
| 分譲戸建 | 37.5歳 | 32.7年 | 
多くの方が住宅ローンを最長の35年で組んでいます。
平均購入年齢40.8歳に35年を足すと、ローン完済は75.8歳。つまり、多くの方が70代半ばまで住宅ローンを払い続けるのが「普通」になっているのです。定年後のローン返済をどうするかは、シニア世代にとって避けて通れない課題です。
退職金で住宅ローンを返済するメリット・デメリット
退職金でローンを返すことは、良い面(メリット)と注意すべき面(デメリット)があります。それぞれをしっかり理解しましょう。
【メリット】老後の家計を楽にする効果
| メリット | 内容 | 
| 毎月の支出が減る | ローン返済額がゼロ(または大幅減額)になり、年金生活での家計の圧迫を防げます。これが最も大きな安心材料です。 | 
| 利息の負担が減る | 残りのローンを一気に返済することで、将来支払う予定だった利息が不要になります。特に金利が上がる可能性がある場合は効果的です。 | 
| 心理的な不安を軽減 | ローンという大きな借金がなくなることで、老後の生活への不安が減り、精神的なゆとりが生まれます。 | 
【デメリット】「現金不足」と「もしも」の備えに注意
| デメリット | 内容 | 
| 老後の生活資金が減る | 退職金は老後の「生活費」や「介護費用」「緊急予備資金」です。全額を返済に充てると、手元の現金が心もとなくなり、病気や急な出費に対応できなくなる危険性があります。 | 
| 団体信用生命保険(団信)の適用がなくなる | ローンを完済すると、団信の保障もなくなります。団信は、ローンの契約者に万が一のことがあったとき、残債が保険で完済される仕組みです。特に持病がある方は、新たに民間の生命保険に入りにくい場合があり注意が必要です。 | 
| 完済間近だと利息軽減効果が少ない | ローンは返済初期は利息の割合が多く、後期は元金の割合が多くなります。退職する頃にはローンの大半を返済しているため、完済直前の一括返済では、利息の軽減効果は思ったほど大きくない場合があります。 | 
団体信用生命保険(団信)とは
住宅ローンを組む際に加入する団体信用生命保険(団信)は、万が一の事態から家族を守る大切な保険です。契約者に死亡や高度障害などの「もしも」があった場合、保険金で住宅ローンが完済されます。これにより、遺族は家を失うことなく、経済的な負担も残りません。保険料は金利に含まれていることが多く、がんや三大疾病をカバーする特約付きもあります。退職金でローンを完済すると、この団信の保障がなくなる点には注意が必要です。
【危険!】退職金全額を返済に充てるのは避けるべき理由

最大の危険は、「手元の現金がなくなること」です。
老後の生活では、予期せぬ出費が発生します。
- 病気やケガの治療費・入院費
- 自宅の修繕費(給湯器の故障、水漏れなど)
- 介護費用
- 急な家族の支援
退職金を使ってローンを完済しても、手元に現金がなければ、いざというときにまた借金をしたり、生活を切り詰めたりしなければなりません。
【現金を確保する意義】
退職金は「借金の返済」よりも「老後の安心な暮らしのための予備資金(現金)」として一定額を確保することが極めて重要です。目安として、生活費の約6か月~2年分はいつでも引き出せる現金で残しておくことを強くおすすめします。
賢い住宅ローン返済の選択肢とシミュレーション
退職金を使う場合でも、全額返済以外に、一部だけを返済する「繰り上げ返済」という方法があります。
住宅ローン繰り上げ返済の2つの方法
繰り上げ返済は、ローンの残高の一部をまとめて返す方法です。
- 期間短縮型: 毎月の返済額は変えずに、返済期間を短くする方法。
- 利息の軽減効果が大きく、完済年齢を早めたい方に適しています。
 
- 返済額軽減型: 返済期間は変えずに、毎月の返済額を小さくする方法。
- 定年後の毎月の家計負担を減らしたい方に適しています。
 
シミュレーション:退職金1,800万円のうち1,000万円を繰り上げ返済した場合
(例:40歳で3,800万円借入、金利0.625%、35年ローン)
| 返済方法 | 繰り上げ額 | 軽減された利息額 | 効果 | 
| 期間短縮型 | 1,000万円 | 約72万円 | 完済時期が約8年10ヶ月短縮される | 
| 返済額軽減型 | 1,000万円 | 約50万円 | 毎月の返済額が約4.5万円に減る (約5.5万円の軽減) | 
この例では、手元に800万円の現金を残しつつ、ローン負担を大きく軽減できました。
退職金を「運用」する考え方

住宅ローンの金利は、他のローンと比べて比較的低いことが多いです(例:0.6%前後)。
「ローンの金利(支払う利息)より、退職金を運用して得られる利益(リターン)の方が大きいのではないか?」
このような考え方もあります。例えば、退職金1,800万円を投資信託(期待リターン3%)で運用しながら、ローンの返済を続けた場合、資産が殖える可能性があります。
- ローンの金利 < 運用で期待されるリターン なら、運用する価値あり。
- ただし、投資はリスクがあり、将来の運用成果は確定していません。
2024年からの新しいNISA(少額投資非課税制度)を活用すれば、運用益が非課税になるため、資産を殖やしやすい有効な手段の一つとなります。
参考記事:シニア世代必見!「新NISA」活用で豊かなセカンドライフを手に入れる3つの方法

まとめ:あなたに合った賢い返済計画を

退職金を住宅ローンに充てるかどうかは、老後の生活設計全体から決めるべきです。
- 退職金全額の返済は「危険」:最低限の緊急予備資金(生活費の半年~2年分)は必ず現金で残しましょう。
- 安心を優先するなら「期間短縮型」の繰り上げ返済:手元に現金を残しつつ、ローンの完済年齢を早めることで安心感を得られます。
- 家計を優先するなら「返済額軽減型」の繰り上げ返済:毎月の支出を減らし、年金生活の負担を軽減します。
- 積極的な資産形成を目指すなら「運用」も視野に:ローンの金利と運用で期待されるリターンを比較し、リスク許容度に応じて判断しましょう。
大切なのは、「なんとなく」で決めるのではなく、ご自身のリスク許容度(どれくらいなら損をしても大丈夫か)と、今後の生活費をしっかりシミュレーションすることです。
やみくもに退職金全額を住宅ローン返済に充てるのは避け、家族とも話し合い、ファイナンシャルプランナーなどの専門家にも相談しながら、老後の安心を確保できる最善の計画を立ててください。
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