「2人に1人が、がんになる時代」
あなたは、そんな言葉を聞いて不安になったことはありませんか? 保険会社の営業の方から、「がん保険に入りませんか?」と勧められた経験がある方もいるかもしれませんね。
でも、ちょっと待ってください。 「がんになったら大変だから、がん保険に入っておけば安心」と安易に考えるのは、もったいないかもしれません。
このブログでは、がんの治療を経験した方が実際に感じた「お金」と「心の負担」についてお伝えします。そして、がんに備えるための正しい知識と準備について、一緒に考えていきましょう。
がんの治療にかかるお金は、意外と高くない?

「がんの治療はすごくお金がかかる」というイメージがあるかもしれませんね。
たしかに、治療内容によっては高額になることもありますが、日本の医療制度のおかげで、私たちの自己負担額は抑えられています。
厚生労働省のデータによると、公的な医療保険が使える治療の場合、入院費や外来(通院)費の平均は、皆さんが想像するほど高額ではありません。
たとえば、入院治療の場合、自己負担額は平均で6万円~8万円程度、通院の場合だと4,000円~1万1,000円程度が目安とされています。
もちろん、治療の内容や期間によって金額は変わりますが、皆さんが病院で払うお金は、これらの金額を大きく上回ることはあまりありません。
これは、日本が世界に誇る「高額療養費制度」のおかげです。 これは、医療費の自己負担額が、1ヶ月の間に一定の金額を超えた場合、超えた分が国から戻ってくる制度です。
この制度のおかげで、私たちは治療費を気にしすぎることなく、安心して医療を受けられるようになっています。
さらに、大きな会社にお勤めの方や、そのご家族は、会社独自の「付加給付制度」というものがあるかもしれません。これは、高額療養費制度に加えて、さらに医療費の負担を減らしてくれる会社の仕組みです。勤務先の会社の健康保険組合のホームページなどで、一度調べてみることをおすすめします。
関連記事:医療費が高額になったとき知らないと損をする: 高額療養費制度をわかりやすく解説します

がん患者さんを襲う「経済毒性」とは?


出典:オンラインがん相談サービス CancerWithより
オンラインがん相談サービス「CancerWith」が実施した、全国10~90代のがん患者男女242人を対象にがんに関する意識調査によると、「死に対する不安」や「精神的な不安」よりも「再発するかもしれない不安」が最多という結果となった。
再発しないためには治療を続けるしかない。
がん罹患した方が多く言われるのは、「もとの生活に戻りたい。」「再発するとまた入院になる。」「治療が長引くと働けなくなる。」と再発しないように治療を続けるしかないという。
特に抗がん剤治療は、長期にわたる治療となるケースが多くなり、経済的負担は大きくなる。
そのため「保険やお金は大丈夫だろうか?」という不安を、多くの人が抱えます。
そのため、治療をしながら仕事をしたいと考える人もいます。
最近では、がん患者の従業員に対して配慮した勤務体制をとってもらえる企業も多くなっていますが、仕事の内容によっては仕事を続けることが困難になることもあります。
例えば、事務の仕事であっても、抗がん剤治療の副作用による、むくみによってパソコンを打つことができなくなり結果、復職できなくなることもあります。
仮に続けられる仕事であったとしても、在宅勤務が難しい仕事であった場合、通勤の電車に乗れるかなどの問題もあります。そのため、「仕事は続けられるのか?」といった不安を抱え途中で治療を断念してしまう方もいます。
経済毒性の3つの要素

「高額療養費制度があるなら、お金の心配はないんじゃない?」と思う方もいるかもしれません。 しかし、がんの治療経験者を対象としたあるアンケートでは、約9割の方が「お金の心配をした」と答えています。
これは、治療費そのものだけでなく、治療が長引くことによって起こるさまざまな金銭的な負担や、それによる心の負担が影響しているのです。これを専門家は「経済毒性」と呼んでいます。
経済毒性は、主に以下の3つの要素から成り立っています。
1. 支出が増える
治療費だけでなく、通院のための交通費や、食事、かつらやウィッグなど、今までにはなかった出費が増えます。
2. 収入が減る
治療の副作用などで仕事を休まざるを得ない場合、収入が減ってしまいます。会社員なら、「傷病手当金」などを受け取れる場合もありますが、自営業の方やフリーランスの方は、収入がゼロになることもあります。
3. 不安な気持ちが大きくなる これが一番大きな要素です。
「いつまで治療が続くのか?」「再発したらまたお金がかかるのか?」「貯金はいつまでもつのだろうか?」 終わりが見えない治療期間や、減っていくお金に対する不安が、心に大きな負担をかけます。この不安が大きくなりすぎると、「もうこれ以上、治療は続けられない…」と治療そのものを諦めてしまう方もいるのです。
つまり、経済毒性とは、単にお金の「金額」の問題ではなく、お金にまつわるさまざまな「不安」が、私たちの心と体を蝕んでいくことなのです。
参考資料:(※1)NPO法人キャンサーネットジャパン がん治療経験者を対象とした経済毒性についてのアンケート
経済毒性とは、治療費の負担や収入の減少などの経済的な負担により、がん患者さんやその家族に経済的、心身への悪影響が出ることを指します。
治療中に知っておきたかったこと

上述のNPO法人キャンサーネットジャパンが行った「がん治療経験者を対象とした 経済毒性についての アンケート」(※1)によると、がんの治療経験者が「もっと早く知りたかった」と語るのは、以下のようなことでした。
- 診断されたときに、治療にかかるお金の目安を教えてほしかった。
- 薬をどれくらいの期間、飲むことになるか教えてほしかった。
- 治療を続けるのが不安になった時、誰に相談すればいいかわからなかった。
がんの治療が長くなると、お金だけでなく、気持ちの面でもしんどくなることがあります。そんな時は、一人で抱え込まず、専門の相談窓口を頼ることが大切です。
参考資料:(※1)NPO法人キャンサーネットジャパン がん治療経験者を対象とした経済毒性についてのアンケート
がんと診断されたら、まず病院の相談窓口へ!
多くの病院には、「がん相談支援センター」や「相談室」が設けられています。 そこにいる「医療ソーシャルワーカー」や「看護師」は、治療費のことや、仕事と治療の両立、使える制度などを一緒に考えてくれる心強い味方です。
具体的には、こころのケアをしてくれる専門家には、カウンセリングなどの精神療法を行う「心理士」、心の苦痛に対してどのような治療が必要か判断し、カウンセリングや薬剤で治療を行う「精神腫瘍医(精神科医、心療内科医)」がいます。
これらの職種は、全てのがんの治療を受けるところに必ずしもいるというわけではなく、精神腫瘍科、心療内科、緩和医療科という限られた診療科に在籍していることが多いです。
「こんなこと、聞いていいのかな?」と遠慮せずに、まずは相談してみましょう。
最近のがん保険は、こんなに変わった!

「それでもやっぱり、将来が不安だ…」という方のために、民間の「がん保険」についてお話しします。
以前のがん保険は、がんと診断された時や、入院・手術をした時に保険金が支払われるタイプが主流でした。しかし、最近は医療技術が進み、がん保険の内容も大きく変わってきています。
特に注目すべきは、「高額療養費ではカバーできない自由診療」に備えるタイプが増えていることです。
- 抗がん剤治療:今は、入院せずに通院で抗がん剤治療を行うことが一般的です。最近のがん保険は、通院での抗がん剤治療もしっかりと保障してくれるものが多くなっています。
- 先進医療・自由診療:これは、国の公的な医療保険が使えない、最新のがん治療のことです。たとえば、海外では効果が認められているのに、日本ではまだ承認されていない薬などを使う場合がこれにあたります。このような治療は、費用が全額自己負担となるため、高額になる可能性があります。最近のがん保険は、こういった治療を受けた場合も、しっかりと備えられるように設計されています。
もし、昔から入っているがん保険がある方は、一度内容を見直すことをおすすめします。最新の治療に対応した、より安心できる保険が見つかるかもしれません。
まとめ:不安をなくすための、正しい備え方

「がん保険に入っておけば大丈夫!」という保険会社の言葉を鵜呑みにするのは危険です。 大切なのは、お金の不安(経済毒性)に陥らないよう、自分に合った正しい知識と準備をすることです。
- 「高額療養費制度」を理解する:公的な制度で医療費の負担が軽くなることを知っておくだけでも、不安はぐっと減ります。
- 病院の「相談窓口」を活用する:一人で悩まず、専門家に相談することで、金銭的な不安や心の負担を軽くできます。
- それでも不安なら「がん保険」を検討する:公的な支援制度や相談窓口を使っても不安が消えない場合は、自分に合ったがん保険を探してみましょう。
「がんと向き合うこと」は、一人で立ち向かう必要はありません。
お金や仕事、心の悩みを専門家や制度に頼ることで、がんと闘う患者さんが、安心して治療に専念できる社会になることを願っています。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。 あなたの不安が少しでも軽くなれば幸いです。
コメント