最近、物価がどんどん上がっていて、家計の足しにとパートやアルバイトを始めたり、もっと働こうと考えている方も多いのではないでしょうか。
「年収の壁」という言葉を聞いたことがあるけれど、なんだか難しそう…と敬遠していませんか?この「壁」を意識して、本当はもっと働きたいのに、働く時間をセーブしている方もいらっしゃるかもしれません。
でも、安心してください。この「壁」は、難しく考える必要はありません。大きく分けて2種類だけなんです。
今回は、シニア世代の皆さんが損をしないために、「年収の壁」をわかりやすく解説し、どうすれば一番おトクに、老後の年金も増やしながら働けるのかをご紹介します。
これを読めば、
- 「年収の壁」がどういうものなのか
- いくらまで稼ぐのが一番おトクなのか
- 年金を増やす働き方
- 来年度から始まる新しい「壁」
がスッキリわかりますよ。
「年収の壁」はたったの2種類!
年収の壁には、「103万円」「106万円」「130万円」など、たくさんの数字があって混乱しますよね。でも、実は大きな違いで分けるとたったの2種類しかありません。
ここでは、わかりやすくするために、夫が会社員で、妻がパートで働いているという設定で話を進めますね。(立場が逆の場合や、ご夫婦ともにシニア世代の場合も考え方は同じです。)
夫の税金とあなた自身の税金に関わる「税金の壁」

この壁は、主にあなた自身が所得税を払うかどうか、そして夫(配偶者)が払う税金(所得税や住民税)が増えるかどうかに関わってくる壁です。
壁の数字は、103万円や150万円、201万円などです。
【ココが重要!】あなたの所得税がかかる年収はいくら?
パートなどの給与収入がある場合、税金を計算するうえで引いてもらえる「控除」という金額があります。あなたの年収がこの控除額の合計以下であれば、所得税はかかりません。
- 従来の「103万円の壁」: 年収103万円を超えると、あなた自身に所得税がかかり始めます。 (内訳:誰でも受けられる基礎控除48万円 + 給与収入に応じて引かれる控除の最低額55万円 = 103万円)
- 2025年からの「新しい壁」(最大160万円): 2025年からは、年収200万円以下の方を対象に控除額が上乗せされるため、所得税がかからなくなる年収の上限が最大160万円に引き上げられる見込みです。
【注意点】 所得税は最大160万円までかからなくなっても、住民税はもっと低い年収(自治体によりますが、約100万円程度)を超えると課税が始まります。
この税金の壁を超えると、夫の給料から控除できる金額が少なくなるため、夫が払う税金が増え、夫の手取りが減ることにもつながります。
- 103万円の壁: この金額を超えると、夫が「配偶者控除」という税金の優遇を受けられなくなります。
- 150万円の壁: この金額までは、夫が「配偶者特別控除」という優遇を最大限受けられます。これを超えると、夫の税金の優遇が少しずつ減っていき、最終的にあなたの年収が201万円を超えると、優遇がゼロになります。
【ポイント】 税金の壁は、急に大損するわけではありませんが、夫婦で世帯全体の手取り額を考える必要があります。
あなた自身の保険料に関わる「社会保険料の壁」(106万円、130万円)

これが一番重要で、あなたの手取り額に大きく影響してくる壁です。
この壁を超えると、今まで夫の会社の「社会保険」(健康保険や厚生年金)に入っていて、保険料を払わずに済んでいた方が、自分で保険料を払わなくてはならなくなります。
保険料は結構な金額になるため、手取りが大きく減ってしまうので、「働き損」と感じる方が多いのは、この壁が原因です。
壁の金額は、主に106万円と130万円の2つがあります。
最適な年収額は「130万円未満」か「壁を大きく超える」!
結論から言うと、パートなどの短時間で働く場合、まず意識するのは「130万円の壁」です。
まずは「130万円の壁」を意識!
- 年収が130万円未満: 夫の社会保険の「扶養内」にいられるので、あなたの社会保険料はかかりません。この金額に抑えるのが、短時間で働くうえで手取り額を一番多くする方法です。
- 年収が130万円以上: 夫の扶養から完全に外れます。 自分で「国民健康保険料」と「国民年金保険料」を全額払うことになります。 この保険料は、年間で約32万円ほど(地域や状況で変動します)かかり、その分、手取りが大きく減ってしまいます。
【要注意】働き損になる期間
例えば、年収129万円の手取り額と同じくらいにするには、年収を174万円くらいまで増やさないといけない場合があります。この130万円〜174万円くらいの年収帯は、社会保険料の負担が重く、「働き損」と感じやすい期間となります。
会社の規模によっては「106万円の壁」にも注意!
あなたの勤務先の条件によっては、年収130万円未満でも、106万円を超えると夫の扶養から外れ、あなたの会社の「厚生年金」と「健康保険」に加入しなくてはならない場合があります。
これは、以下の5つの条件をすべて満たす場合に適用されます。
- 1ヶ月の給料が8.8万円以上(年収で約106万円以上)
- 週の労働時間が20時間以上
- 雇用期間が2ヶ月を超える見込みがある
- 従業員数(社会保険の加入者)が51人以上の会社(2024年10月以降)
- 学生ではない
これらは、実際の勤務で超えたかどうかではなく、雇用契約書によって決まります。そのため繁閑期によって月の収入や週の勤務時間に増減があっても問題はありません。残業代・交通費・ボーナスは対象外です。
なぜ130万円を超えて働きたくても働けないのか?

年収174万円以上を目指せば手取りが回復し、将来の年金も増えるメリットがあるにもかかわらず、「130万円の壁」の少し下で労働時間を抑えている方が多いのはなぜでしょうか。
シニア世代の方にも共通する、主に3つの大きな事情があります。
理由 1:体力的・時間的な制約があるから
これが、シニア世代の方にとって最も大きな理由の一つです。年収174万円以上を稼ぐには、労働時間(シフト)を大幅に増やす必要があります。
- 体力の維持を優先したい: 週に何日も長時間働くことは、体力的に大きな負担となります。「健康を維持しながら、無理のない範囲で働きたい」という思いから、働く時間を増やせない方が多いです。
- 介護や家事、プライベートの時間が優先: ご自身の親や配偶者の介護、あるいは孫の世話など、家庭の事情で労働時間を制限せざるを得ない方もいます。また、パートはあくまで「生活の足し」であり、趣味や地域活動といったプライベートの時間を大切にしたいと考える方も多く、仕事にすべての時間を費やすことはできません。
理由 2:一時的に手取りが減る「働き損」を避けたいから
年収130万円を超えた途端に、自分で国民健康保険と国民年金の保険料を全額(年間約32万円)払わなくてはならなくなります。
- 「働き損」を避けたい: 年収130万円から174万円あたりまでの間は、頑張って働いても保険料で手取りが大きく目減りするため、「これなら働かない方がマシ」と考えて、あえて130万円未満に収入を抑える方が多いです。
- 家計管理が複雑になる: 130万円を超えると、自分で保険や年金の手続きをし、保険料を納める義務が発生します。複雑な手続きや保険料の支払いを避けたいという方もいます。
理由 3:配偶者(夫)の会社の制度が関係しているから
あなたの年収が増えることで、夫の会社からの収入が減ってしまう場合があります。
- 夫の会社の「扶養手当」がなくなる: 夫の勤務先によっては、配偶者(妻)の年収が103万円や130万円を超えると、会社から支給されていた「家族手当」や「配偶者手当」(月1万円〜2万円程度が多い)が打ち切られてしまうことがあります。 この手当がなくなることも含めて考えると、世帯全体の手取りがさらに減ってしまうため、「壁」を超えることをためらってしまうのです。
厚生年金に加入する「おトクな働き方」を考えよう!

もしあなたがもっと働きたいなら、思い切って年収174万円以上を目指して働き、手取りを回復させることをおすすめします。
さらに、会社の厚生年金に加入できる働き方を選ぶことが、将来の年金を増やせて最もおトクです。
厚生年金に加入するメリット
会社の厚生年金に加入すると、保険料を会社と半分ずつ(折半)払うことになるため、自分で国民年金と国民健康保険の全額を払うよりも、手取りの減りが少なくなります。
なにより、老後の「公的年金」を増やすことができます。
- 年収120万円で厚生年金に10年間加入した場合、老後の年金は一生涯で毎月約5,000円増えます。
- 年収150万円で厚生年金に10年間加入した場合、老後の年金は一生涯で毎月約6,400円増えます。
「たったそれだけ?」と思うかもしれませんが、長く生きるほどトクになりますし、老後の生活資金の不安を少しでも減らすことができます。また、働けなくなった時の傷病手当金などももらえるようになります。
【来年度の新しい壁】年収160万円の壁とは?
※この「160万円の壁」は、所得税の非課税枠の引き上げのことで、社会保険の壁ではありません。
政府は、年収130万円を超えて社会保険料を払うことになり、手取りが減ってしまう「働き損」の期間をなくそうという取り組みを進めています。
具体的な内容はまだ確定していませんが、社会保険料を払うことになっても、手取りが減らないように、会社に助成金を出したり、一時的に保険料の支払いを軽くしたりする制度が検討されています。
この制度が始まれば、「130万円の壁」を気にせずに働けるようになり、パートで働く人にとって大きなメリットになります。今後の情報に注目しましょう。
まとめ:夫婦で話し合い、一番おトクな働き方を見つけましょう!

パートで働くシニア世代の皆さんにとって、最適な働き方はこの3つです。
- 【手取り重視】:年収を130万円未満に抑えて、社会保険料の負担をなくす。
- 【年金重視・損をしない】:会社の厚生年金に加入し、思い切って年収174万円以上を目指して働く。
- 【夫の会社の扶養手当も要チェック】:夫の会社からの「扶養手当」は、妻の年収が103万円以下、または130万円以下といった制限がある場合があります。この手当を考慮すると、年収を103万円や130万円ギリギリに抑えるのが一番おトクというケースもあります。
定年後、ご夫婦で短時間でも厚生年金に加入して働くことは、老後の年金を増やすという最高の老後対策にもなります。
ぜひご夫婦でじっくり話し合い、ご家庭の事情に合った一番おトクで、無理のない働き方を選んでみてくださいね。
いかがでしたでしょうか? この記事が、皆さんの年金生活を考える上で、少しでもお役に立てれば幸いです。もし気になる点や、さらに詳しく知りたいことがあれば、お気軽にご質問ください。


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