「静かな退職(Quiet Quitting)」とは、実際に会社を辞めるわけではなく、仕事に対して必要最低限の業務だけをこなし、それ以上の努力や貢献をしない働き方のことを指します。
言い換えれば、働きながら「心理的な退職」をしている状態です。
この概念は、2022年頃にアメリカのSNSを中心に広まり、日本でも特に若い世代(Z世代)で注目されています。しかし、実はミドルシニア世代にも見られる現象なんです。
その特徴としては、時間外労働を拒否し、自分の担当業務以外には積極的に関わらない、評価や昇進には特に興味を示さない、などが挙げられます。
「退職」という言葉が入っていますが、文字通り会社を辞めることとは異なります。キャリアアップや昇進を目指すのではなく、仕事とプライベートの境界線を明確に引き、ワークライフバランスを重視する傾向が強いのが特徴です。
また、この背景には、「頑張っても正当に評価されない」「努力が報われない」という感覚や、過度な業務負担への不満があります。さらには、過剰な労働やストレスから自分を守り、心身の健康を優先したいという燃え尽き症候群(バーンアウト)への抵抗も意識されています。
「静かな退職」の実態:なんと正社員の4割以上が経験!
株式会社マイナビが全国の企業・個人を対象に実施した「正社員の静かな退職に関する調査2025年(2024年実績)」によると、驚くべき結果が発表されました。
なんと、正社員の4割以上が「静かな退職」をしていると回答。20代が最多で46.7%
「静かな退職」をしている割合
20~50代の正社員に「静かな退職」をしているか聞いたところ、「静かな退職」をしていると回答した割合は44.5%と4割を超えた。【図1】

年代別の「静かな退職」割合
年代別にみると、最も多かったのは20代で46.7%、次いで50代が45.6%、40代が44.3%だった。「静かな退職」をしている人はどの年代でも4割を超えており、幅広い年代に存在することがわかった。【図2】

今回の調査から、正社員の4割以上が「静かな退職」をしており、これはもはや特別なことではなく、一般的な働き方になりつつあることが分かります。
そのうちの約7割は「今後も静かな退職を続けたい」と回答しているため、この働き方を変えない人は一定数いると推測できます。「静かな退職」は「決められた仕事はこなす」ことが特徴であり、企業もそういった働き方にある程度の理解を示しているものの、業種や業務内容によっては反対意見も見られました。
また、「静かな退職」のきっかけを分類した結果から、仕事や環境の不一致や評価・処遇への不満、仕事環境などが要因で、不本意ながら「静かな退職」を選択している人がいることも見えてきた。不本意な静かな退職者は不満を抱えながら働いている可能性が高いため、企業は少しでも不本意な静かな退職者を生み出さないような工夫や制度改革が求められるのではないだろうか。
価値観が多様化する昨今、企業は個人の多様な価値観を受け入れ、柔軟な働き方を提供し、向き合っていくことが重要だと考えられます。
静かな退職のメリット・デメリット
「静かな退職」は、単なる怠惰と捉えられることもありますが、多くの場合、従業員がより健全な働き方や生活を求めた結果として現れる現象と言えるでしょう。
従業員にとってのメリット
- 仕事のストレスが軽減され、精神的なゆとりが生まれる。
- プライベートな時間を確保しやすくなり、趣味や自己啓発に充てられる。
- キャリアアップのプレッシャーから解放される。
企業にとってのデメリット
- 従業員のエンゲージメント(会社への愛着や貢献意欲)が低下し、生産性が落ちる可能性がある。
- 新たな挑戦やイノベーションが生まれにくくなる。
- 職場のコミュニケーションが希薄になる可能性がある。
「静かな退職」は、単なる怠惰と捉えられることもありますが、多くの場合、従業員がより健全な働き方や生活を求めた結果として現れる現象と言えるでしょう。
「静かな退職」は、何も悪くない!
結論から言えば、「法的には何も悪くない」です。
労働契約において明示された業務を遂行している限り、会社から評価が下がることはあっても、処分されるような問題にはなりません。
にもかかわらず、「静かな退職」に対してネガティブな意見があるのでしょうか?
それは、チーム全体の士気の低下さらには組織全体の生産性の低下につながる可能性があるからです。
「静かな退職」にも2つのタイプがある
具体的な行動としては、以下のようなものがあります。
・指示された業務しかこなさない
・必要以上の残業をしない
・昇進や責任のあるポジションに関心を持たない
・社内イベントへの参加を避ける
・仕事関連のメッセージに最低限しか返信しない
・積極的に発言しない(提案やアイデア出しをしない)
上記のような行動が見られる方にも、以下のような2つのタイプに分かれると思われます。
① ステルス(ひっそり)タイプ
与えられた業務は一切手を抜かないが、職場にはわからないように辞める準備を水面下で最後まで進めるタイプ。
②オープン(おおっぴら)タイプ
職場での処遇や人事評価の不満などをきっかけに急にやる気がなくなる状態。言動や態度に現れやすく、周囲も異変に気づきやすいタイプ。
このタイプの場合は、たとえ法的には問題がなくても、「オープンに「静かにやる気をなくした人」が職場に増えれば、残されたメンバーへの負担が増し、現場が疲弊していくことが企業側が「静かな退職」に警戒する一番の理由だと思います。
50代を過ぎて選ぶべきは“静かな退職準備”

定年を意識し始める50代前半からは、「高い収入」を追い求めるキャリアからの転換を考える必要があります。キャリアの高みを目指すことをどのように諦めるか。それが、定年後の幸せな生活を送れるかどうかを大きく左右するのです。
つまり、サラリーマンの方であれば、早めに出世競争から自らをドロップアウトすることで、定年後の働き方の準備をする時間をしっかり作ることが重要になってきます。
50歳を超えると、会社での役割はほぼ決まってきますよね。出世競争に居残るのではなく、少しでも早い段階で定年後の働き方を考えるべきです。
静かに定年を迎えるのではなく、定年までしっかり会社に貢献しながら、定年後の働き方の準備を進める。まさに「静かな退職準備」という考え方が重要なんです。
できることから「主体的かつ静かに準備する」ことで、定年後の未来の選択肢は確実に広がります。
参考記事:定年後のおすすめの働き方は「フリーランス(起業)」

参考文献
静かな退職という働き方(著書 海老原 嗣生)より
「静かな退職」ブームは「家事育児は誰がするのか」という問題意識の反映であり、一方で以前からこのような働き方を望む声はあったと著者海老原さんは指摘します。様々な業務の経験を強いられ「企業戦士」的働き方を求められる日本の企業では、20~30代で会社に打ちのめされることが多く、潜在的にこういった考え方はあったということです。家に帰れば妻がいるという差別的な性別役割分担社会のなかで、男性は長時間働いてきた。ところが、今は学歴もほぼ一緒だし、大企業の新卒採用数はほぼ男女半分ずつ。こういう社会では結婚してもお互いに正社員というのは当たり前です。その中で女性に家事・育児を押し付けるわけにはいかない。その成果としてムダな仕事はしないという「静かな退職」の動きが市民権を得ているわけです。
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