定年退職という大きな節目を前に、多くの方が悩むのが退職金の受け取り方です。
一括でもらう一時金か、分割でもらう年金か、あるいはその両方を組み合わせるのか。
退職金の受け取り方で税金がかなり違うと聞いたが実際どうなの?
と不安に思われる方も多いでしょう。
結論から言えば、選び方ひとつで手元に残るお金には、驚くほどの差が生まれます。
今回は、まず最初に行うべき準備から、税制面で有利な退職所得控除の仕組み、さらに2026年から完全適用となった最新ルールに基づくiDeCo(イデコ)との賢い併用術まで、具体的な事例を交えてわかりやすくお伝えします。
まずは退職金規定を手元に用意しましょう
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具体的なシミュレーションを始める前に、必ずやっていただきたいことがあります。
それは、お勤め先の退職金規定(就業規則)を確認することです。
意外と自分の会社のルールを正確に把握している人は少ないものです。
まずは以下の3点をチェックしてください。
・受取方法の選択肢:一時金のみ、年金のみ、併用可能など、会社によってルールが異なります。
・年金の利率:年金形式で受け取る場合、何%の利息がつくのか。
・概算金額:現時点で自己都合退職、または定年退職した場合の想定額。
自分の立ち位置、つまりいくらもらえるか、どう選べるかを知ることが、出口戦略の第一歩です。
退職金の本質を理解する
マインドセットを整えましょう。退職金を長年頑張った自分へのご褒美と考えて、すぐに大きな買い物に充てようとしていませんか?
もちろん、自分を労うことは大切です。しかし、厳しい言い方をすれば、退職金の本質は「給料の後払い」です。
企業は、従業員が若いうちの賃金を調整したり、毎月の給料から積み立てたりすることで、退職時の原資を確保しています。あなたが本来受け取るはずだった報酬を、会社があなたの代わりに運用・管理し、最後にまとめて返してくれるものなのです。
この意識を持つと、安易な浪費を防げます。これからの長い老後生活を支えるための大切な生活原資として、一円でも多く手元に残す戦略が必要になります。
一時金受取の最大の武器:退職所得控除
一時金(一括受取)を選ぶ最大のメリットは、税制面での圧倒的な優遇措置、退職所得控除にあります。
退職所得控除の計算式: 勤続年数が長ければ長いほど、非課税枠が大きくなります。
・勤続20年以下:40万円 × 勤続年数 ・勤続20年超:800万円 + 70万円 × (勤続年数 – 20年)
この控除枠内に収まれば、税金はかかりません。さらに枠を超えた分についても、他の所得とは切り離して2分の1にした金額に課税されるため、非常に優遇されています。
具体的な事例で比較:60歳・勤続37年・退職金1,500万円の場合
ここでは、iDeCo(イデコ)の資産が800万円あるケースで、受け取り方によってどれだけ税金が変わるかを見てみましょう。
事例の前提条件
・年齢:60歳
・勤続年数:37年
・会社の退職金:1,500万円
・iDeCo資産:800万円(合計資産2,300万円)
この方の退職所得控除額は以下の通りです。
800万円 + 70万円 × (37年 – 20年) = 1,990万円
パターンA:iDeCoをすべて一時金で、会社と同じ年に受け取った場合
合計受取額は2,300万円です。控除額1,990万円を差し引くと、残りは310万円。
課税対象(退職所得)は、この310万円の2分の1である155万円となります。
これに対し、所得税や住民税が発生し、数十万円の手出しが必要になります。
せっかくの資産が税金で目減りしてしまいます。
パターンB:併用受取(一時金 + 年金)でメリットを最大化する場合
ここで「併用受取」の凄さが発揮されます。
- ステップ1:退職所得控除の「余り」を計算する 勤続37年の控除枠(1,990万円)から、会社の退職金(1,500万円)を引くと、残り490万円の非課税枠が余っています。
- ステップ2:余り枠を「一時金」で受け取る iDeCoの800万円のうち、490万円分を「一時金」として指定します。これで、ここまでの合計1,990万円分は税金が1円もかかりません。
- ステップ3:残りを「年金」で受け取る 残り310万円を年金(例:5〜10年分割)として受け取ります。毎年の受取額を「公的年金等控除」の範囲内に収めることで、さらに節税できます。
この方法なら、一時金部分はすべて非課税枠内に収まります。年金として受け取る分も、毎年の公的年金等控除の範囲内で受け取れば、所得税や住民税を限りなくゼロに近づけることが可能です。まさに手取りを最大化する最強の出口戦略です。
手続きの具体的な流れ
受取の手続きは、加入している金融機関(運営管理機関)に対して行います。
- 裁定請求書の受け取り: 60歳が近づくと、記録管理機関(JIS&T社など)から「老齢給付金の受取に関するご案内」が届きます。
- 受取方法の選択: 請求書類の中で「一時金」「年金」「一時金と年金の併用」から選択します。
- 金額・期間の指定: 併用を選ぶ場合、「いくらを一時金にするか(または何割を一時金にするか)」、残りの年金を「何年かけて受け取るか」を指定します。
- 書類の提出: 必要事項を記入し、印鑑証明書などの添付書類とともに返送します。
注意点:金融機関による違い
すべての金融機関で「併用」ができるわけではありません。一部の金融機関では「一時金か年金のどちらか一方のみ」というルールの場合もあります。
まずはご自身の利用している金融機関のウェブサイトやコールセンターで、「併用受取(併給)が可能か」を真っ先に確認することをお勧めします。
知っておくべき最新の10年ルール
2026年1月より、iDeCoと会社の退職金をずらして受け取る際のルールが厳格化されました。
10年ルール(旧5年ルール) かつてはiDeCoを先に受け取り、5年空けて退職金をもらえば控除枠を再利用できましたが、現在は10年(前年以前9年以内)の間隔が必要になっています。
・iDeCoを先に一時金でもらう:60歳でもらい、会社退職金を70歳以降にもらうなら控除枠をリセットできます。
・会社を先に一時金でもらう:iDeCoの控除枠をリセットするには20年の間隔が必要です。
現実的にこれだけの間隔を空けるのが難しい場合、先述した併用受取(一時金+年金)が極めて有効な解決策となります。
年金受取のメリットと隠れた落とし穴
一方で、分割で受け取る年金形式には、一時金にはない魅力と注意点があります。
メリット:運用継続と規律 多くの企業年金やiDeCoでは、受け取り期間中も運用が継続されます。低金利時代とはいえ、自分で管理するより効率的に資産を守れる場合が多いです。
落とし穴:年金形式で受け取ると、それは雑所得扱いになり所得税、住民税が、毎年課税されます。
受取総額は増えますが、手取り額をしっかり計算することが重要です。
まとめ:あなたの正解を見つけるために

退職金の受け取り方に一律の正解はありません。しかし、以下の3点は共通の指針となります。
- まずは退職金規定を確認する。自分の会社で何が選べるかを知るのが先決です。
- 手取り額で比較する。額面ではなく、税金と社会保険料まで含めたシミュレーションを行いましょう。
- iDeCoがあるなら、受取時期を今すぐ計画する。最新の10年ルールに基づき、一時金と年金の黄金比を見つけてください。
退職金は、あなたが数十年間積み上げてきた大切な資産です。国の制度を正しく理解し、賢く守り抜きましょう。


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