第4回:「みんなが買っているから安心」は赤信号!投資や保険の流行に流される心の仕組み~「群衆心理」のワナ。50代から始める自分だけの軸の作り方~
「最近、みんな新NISAを始めているから、自分もやらないと取り残される気がする」
「お隣の奥さんも、テレビのニュースでもこの株がおすすめって言っていたから安心だろう」
50代を過ぎ、これからの暮らしや資産づくりについて真剣に考え始めると、周囲の動向や世間の流行がいつも以上に気になってしまうものです。
みんなが良いと言っているものを選んでおけば、大失敗はしないはず。
そう考えるのは、ごく自然なことです。人間には、周囲の多数派と同じ行動をとることで安心感を得るという、強力な本能が備わっているからです。
これを行動経済学では「バンドワゴン効果」、あるいは「同調バイアス(群衆心理)」と呼びます。
しかし、この「みんなと一緒なら安心」という心理こそが、人生後半戦の資産形成における最大の黄色信号です。
今回は、私たちが無意識に流行に流されてしまう脳の仕組みと、周りに惑わされずに「自分だけのブレない軸」を作る方法をお話しします。
行列ができるラーメン屋は、本当に「あなた好み」か?
想像してみてください。 あなたが初めて訪れた街で、お腹がペコペコになっています。
ふと見ると、通りに2つの食堂が並んでいます。
- 食堂A:店の前に20人の長い行列ができている。
- 食堂B:中を覗くと、お客さんが一人も入っていない。
さて、どちらのお店に入りたくなりますか?
おそらく、多くの方が「行列ができている食堂Aの方が美味しいに違いない」と思い、Aの列に並ぶはずです。
私たちは、ある選択肢を指示している人が多ければ多いほど、その選択肢の価値を高く見積もってしまいます。これがバンドワゴン効果(勝ち馬に乗る心理)です。
しかし、冷静に考えてみましょう。その行列は、単にテレビで紹介されたばかりだから並んでいるだけかもしれません。あるいは、話題性だけで味はあなたの好みとは全く違う可能性だってあります。
日常の食事なら、「並んだ割に普通だったな」と笑い話で済みますが、これが「生涯の大切な老後資金」だったらどうでしょうか。
「銀行員だから」「いい人そうだから」で決めていませんか?
世間の流行(バンドワゴン効果)に加えて、シニア世代が金融機関の窓口で最も陥りやすい、もう一つの強力な脳の罠があります。
それが、直感やイメージだけで物事を瞬時に判断してしまう「代表性(だいひょうせい)ヒューリスティック」という心の癖です。
人間は、目の前にある複雑な情報をじっくり分析するのを面倒くさがり、「いかにもそれらしい特徴やイメージ」だけで、答えをショートカットして出してしまう習性があります。
例えば、窓口でこんな経験はありませんか?
「銀行の窓口だから、なんとなく間違いないだろう」 私たちは「銀行=確実で絶対に嘘をつかない場所」という強いイメージ(代表性)を持っています。そのため、わざわざ個室やローカウンターに通され、お茶を出されながら丁寧に説明を受けると、「この大手が勧めるのだから安全なものに違いない」と脳が勝手に判断を省略してしまいます。
しかし、銀行はボランティアの相談窓口ではなく、自社の商品を販売する「ビジネスの場」です。彼らも仕事としておすすめを提案しているだけで、私たちの老後の人生に最後まで責任を持ってくれるわけではありません。
「担当者がとても親切でいい人そうだから、大丈夫だろう」 身の上話を親身に聞いてくれた、自分の子供のように優しく接してくれた。こうした「人柄の良さ」に触れると、私たちの脳は「この良い人が、私に損をさせるような悪い商品を勧めるはずがない」と勝手に結びつけてしまいます。
しかし、「担当者の人柄」と「その金融商品のリスクや手数料の高さ」には、1ミリも関係がありません。
「銀行員」「親切な人」という分かりやすいイメージに引っ張られ、商品のリスクや高い手数料という「本質」を見失ってしまう。これこそが、代表性ヒューリスティックの恐ろしい罠なのです。
シニアを惑わす「毎月分配型投信」と「外貨建て保険」の裏側
この「みんなが買っている安心感(バンドワゴン)」と「いい人そうなプロが勧める信頼感(代表性ヒューリスティック)」のダブルの罠によって、シニア世代が選んでしまいがちなのが、かつて大ブームを巻き起こし、今なお根強い人気を持つ「毎月分配型の投資信託」や、窓口で熱心に勧められる「外貨建て保険」です。
「毎月分配型」の盲点 「毎月お小遣いのように分配金がもらえるから安心」「みんな買っているから確実だ」と、退職金の預け先として大人気になりました。
しかしフタを開けてみれば、運用の利益からではなく、「自分が預けた元本を取り崩して(身を削って)配られているだけ」というケースが多発しました。
みんなが買っているからと中身を理解せずに飛びついた結果、気づけば元本が大きく目減りしていたという苦い経験を持つシニアは少なくありません。
「窓口の外貨建て保険」の盲点 「日本より金利が高い米ドルや豪ドルで運用するからお得」「窓口で皆さん申し込まれていますよ」という、いい人そうな担当者の言葉に背中を押され、退職金を一括で預けてしまうケースです。
確かに金利は魅力的ですが、為替手数料や高い保険料が引かれるうえ、円高に振れれば元本割れするリスクがあります。
なにより「保険」という形を取っているため、中身が複雑で手数料が見えにくくなっています。
これらの商品に共通しているのは、「世間の売れ筋ランキング」や「窓口の担当者が太鼓判を押す『みんな選んでいます』」という言葉だけで、自分の許容できるリスク(許容度)を無視して選んでしまいがちという点です。
「周りのみんなが入っているから」「あの人が言うから大丈夫」という安心感は、脳が自分で調べるのを放棄して楽をしようとしているだけの、一時的な錯覚に過ぎません。世間の人気商品や、プロのおすすめが、あなたのこれからの生活設計に合うとは限らないのです。
なぜ「周りと違うこと」をするのが怖いのか?
なぜ私たちは、これほどまでに周囲と同じでありたがるのでしょうか。
その理由は、大昔の原始時代の生存戦略にあります。
過酷な自然界において、群れから離れて単独で行動することは「死」を意味しました。そのため、私たちの脳には「群れと同じ行動をとると安心し、違う行動をとると強烈な不安や恐怖(ストレス)を感じる」という強力なプログラムが埋め込まれています。
だから、周りがみんな「投資を始めている」中で、自分だけが「現金重視の守りの姿勢」を貫こうとすると、まるで自分が間違っているかのような焦りを感じてしまうのです。
しかし、私たちが生きている現代は、原始時代のジャングルではありません。
むしろ、みんなと同じ行動をとった結果、全員で一斉に崖から飛び降りるような事態(バブル崩壊や暴落時のパニック売り)に巻き込まれるリスクの方が、はるかに大きいのです。
周りに流されない「自分だけの軸」を作るコツ
流行の波に飲み込まれず、自分のためにお金を賢く守り、そして豊かに使っていくためには、「世間のモノサシ」や「肩書きのイメージ」を捨てて、「自分だけのモノサシ」を持つことが必要です。
今日からできる、心の軸を整えるシンプルな2つのステップをご紹介します。
① 「みんな」の定義を疑ってみる
「みんながやっている」という言葉が頭に浮かんだら、その「みんな」の正体を一度疑ってみましょう。
テレビ、新聞、ネットニュース、あるいは近所の噂話。それらは本当に「あなたと同じ状況(50代、家族構成、資産額、これからの生き方の目標)」の人のことでしょうか?
他人の家計簿とあなたの人生には、何の因果関係もありません。
主語を「みんなは」から、常に「私は」に置き換える。
「世間ではこの外貨建て保険が人気で、窓口の担当者もいい人だけど、私は為替の変動でハラハラしたくないから、手堅く日本円の定期預金と個人向け国債で守ろう」
そう主語を自分にするだけで、脳の同調ブレーキはすっと静まり、冷静な判断ができるようになります。
② 「ステップ設計図」を紙に書いてみる
世間の大げさな情報に流されないために、自分専用の「ステップ設計図」を1枚の紙に書き出してみるのが一番効果的です。
これは、老後のお金の不安を解決するための「考える順番」を整理したロードマップです。
- ステップ1:まず、自分で稼ぐ(細く長く働く) 60代以降も、体と脳の健康維持をかねて、自分に無理のないペースで細く、ゆるやかに働き続ける。
- ステップ2:次に、国に頼る(一生もらえる年金を育てる) 一番の土台である「公的年金」の受け取りを少し遅らせる(繰り下げる)などして、一生涯もらえるベースの金額を大きく増やす。
- ステップ3:最後に、自分で補う(これまでの貯蓄や投資) ステップ1と2を準備した上で、どうしても足りない分だけ、自分の貯金やNISA、iDeCoからそっと引き出して使う。
このステップを書き出すと、世間の「老後資金は◯千万円必要!」という大雑把な煽り文句が、いかに自分には関係のない数字であるかがはっきり分かります。
「私は長く細く働く(ステップ1)から、投資(ステップ3)で無理にリスクを取る必要はないな」 「公的年金(ステップ2)を増やして一生の安心を作るから、今の資産は健康維持やこれからの趣味(自己投資)にどんどん使って楽しもう」
いきなり一番リスクの高い「投資(ステップ3)」から手をつけるのではなく、下から順番にステップを踏んで考える。
この自分だけの設計図が見える化されていれば、世間でどんな金融商品が流行ろうが、窓口でどんなに親切に勧められようが、「それはそれ、私は私」と、穏やかな気持ちでスルーできるようになります。
まとめ:あなたの人生の主役は、あなた自身
私たちは、ついつい「行列の後ろ」に並んだり、「立派な肩書き」を信じたりすることで安心を買おうとしてしまいます。
けれど、これからのセカンドライフを歩んでいくのは、他の誰でもないあなた自身です。
世間のブームや窓口の「いい人」に無理に合わせる必要はありません。
大切なのは、周りと比べて焦ることではなく、「自分にとって、本当に心地よいお金の守り方と使い方」を見つけることです。
焦って早く走ろうとする必要はまったくありません。無駄な流行やイメージに振り回されないブレない軸を持つこと。それこそが、お財布を最大限に守り、これからの人生を自分のペースで100%楽しむための、最強の行動経済学の攻略法なのです。
次回のテーマは…… 連載の最終回!「『人生の後半戦は、ゆっくり歩く人ほど遠くへ行ける』。50代からのお金と時間を『一番好きなこと』に使う方法(総集編)」です。
焦りは脳をバグらせる一番の原因。まずは立ち止まって深呼吸してみませんか? これまでの心の罠をすっきりと整理し、周りのスピードに流されず、あなたのペースでこれからの人生をさらに豊かに、身軽に楽しむためのヒントをギュッと凝縮してお届けします。
それでは、また次回のブログでお会いしましょう。散歩の合間に、街の「行列」を見かけたら、ぜひご自身の「ブレない軸」をそっと思い出してみてくださいね。
【今日から意識したい3つのポイント】
- 銀行員という「肩書き」や担当者の「人柄の良さ」と、商品のリスクは無関係。
- 「みんなが言っているから」ではなく、主語を「私は」に置き換えて考える。
- まずは働く、次に年金、最後に投資という「ステップ設計図」で、他人のモノサシを捨てる。
(第5回(最終回)へ続く)

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