第3回:給料の1万と臨時収入の1万、なぜ価値が変わる?「あぶく銭」の正体~お金の色分けをやめる。50代からの「心の財布」整理術~
一生けん命に働いて手に入れたお給料の1万円。
たまたま買った宝くじや、引き出しの奥から出てきた臨時収入の1万円。
どちらも、お店に行けば全く同じ「1万円分の買い物」ができる、まったく同じ価値のお金です。
しかし、私たちはなぜか、お給料の1万円を使うときには「無駄遣いはしないようにしよう」と財布の紐を固くするのに、臨時収入の1万円は「せっかくだから、ちょっといいものを買おう」「パーッと使ってしまおう」と、簡単に手放してしまいませんか?
この、お金を手に入れた経緯や状況によって、私たちが無意識のうちに脳の中で「お金を色分け」してしまう癖。
これを行動経済学では「心の家計簿(メンタル・アカウンティング)」、あるいは「心の財布」と呼びます。
今回は、この脳が勝手に作ってしまう見えない仕切りの正体と、「せっかくのお金をなんとなく消費せず、将来の幸せな老後生活のために賢く使う」ためのシンプルなコツをお話しします。
脳は「1円の価値」を平等に扱えない
私たちの脳がいかに「お金を色分け」しているか、身近な日常の風景で考えてみましょう。 スーパーにお買い物に行ったとき、こんな経験はありませんか?
- ケースA:いつも行くスーパーより、10円安い卵を買うために、わざわざ15分かけて隣町のスーパーまで歩いて行った。
- ケースB:その帰り道、「ちょっと喉が渇いたな」と、自動販売機で160円のペットボトルのお茶をなんとなく買った。
よく考えてみると、少し不思議ですよね。 10円を節約するために大切な時間と体力を使ったのに、その帰りに、10円の何倍ものお金を自販機であっさり支払っているのです。
もし自宅からマイボトルを持参していれば、この160円は丸ごと浮いていたはず。
お財布から出ていくお金としては、卵の10円も、お茶の160円も、まったく同じ「お金」です。
それなのに、私たちの脳は、卵に対しては「生活費(厳しく節約する財布)」、自販機のお茶に対しては「お出かけ中の喉の渇き(大目に見る財布)」と、別々の心の財布からお金を出してしまいます。
だからこそ、自分では賢く節約しているつもりでも、別の財布からお金がパタパタと逃げていってしまうのですね。
「年末調整の還付金」をなんとなく使っていませんか?
この「心の財布」の罠が、50代の足元で最も分かりやすく、そして静かに暴走している事例があります。
それが、「年末調整や確定申告で戻ってくる還付金」や、「生命保険料控除などで戻ってくるお金」です。
老後の資金づくりのためにiDeCo(イデコ)でコツコツ積み立てをしている方や、長年しっかりと生命保険料を払い続けている方は多いと思います。
これらは年末調整や確定申告をすることで、払いすぎた所得税や住民税が「還付金」として手元に戻ってきます。
冬になると、口座に数万円がポコンと振り込まれますよね。
このとき、多くの人がやってしまいがちなのが、 「お、年末調整で3万円も戻ってきたぞ!ラッキー、これで今夜はちょっといい寿司でも食べに行こう」 と、その還付金をその月のお小遣いに混ぜて、パーッと使ってしまうことです。
ここに、心の財布の罠が潜んでいます。
この戻ってきた3万円は、決して天から降ってきた「あぶく銭」でも、臨時のボーナスでもありません。
あなたが毎月、コツコツとお給料の中からやりくりして支払ってきた、元々は自分のお金です。
言うなれば、「自分が先取りして貯めていたお金が、税金の優遇という形に変えて、自分の元へ返ってきただけ」。
つまり、これも立派な「老後のための資産」の一部なのです。
それなのに、脳が勝手に「戻ってきた還付金=予期せぬボーナス(自由に使っていい引き出し)」と色分けしてしまうため、本来なら再び新NISAなどの貯蓄に回したり、本当に価値のある使い道に回すべき大切なお金が、形に残らない飲食代やなんとなくの小遣いに化けて消えてしまいます。
これは決して「お寿司を食べるな、節約しろ」ということではありません。
「なんとなくの出費で消してしまうくらいなら、一度心の財布をリセットして、本当に自分を豊かにしてくれる、別の特別な使い道に回しませんか?」という提案です。
シニア世代が気をつけたい「大きな心の財布」

この心の財布の癖は、50代を過ぎてから、さらに大きな金額で牙をむくことがあります。
代表的なのが、「退職金」や「相続財産」の受け取りです。
これまで何十年も、数十円の野菜の値段を気にしたり、スーパーの割引シールを賢く利用したりして、コツコツと節約をしてきたとします。
それなのに、退職金として「2,000万円」というまとまった大金が口座に入った途端、急に心の財布の規模が大きくなってしまうのです。
- 「せっかくだから、100万円くらい使って豪華な海外旅行に行こう」
- 「せっかくまとまったお金があるのだから、勧められた金融商品に300万円くらい投資してみよう」
これまで1万円を使うのにも真剣に悩んでいたはずなのに、分母が「2,000万円」になった途端、10万円や100万円という金額が、まるでコップの中のほんの一滴のように小さく見えてしまう。
これこそが、心の財布が引き起こす最大の錯覚です。
退職金も、相続したお金も、あなたがこれまでの人生で大切に守り、引き継いできた、大切な「生活の土台」となるお金。
手に入り方がいつもと違うからといって、脳の中で「自由に使っていい特別なお金」の引き出しに入れてしまっては、あっという間に底をついてしまいます。
50代からの「心の仕切り」の揃え方
この脳の癖を克服し、人生後半戦の資産を賢く守り、そして何より自分を幸せにするために使うには、お金の「心の仕切り」を整える工夫が必要です。
今日からできるシンプルな2つのアプローチをご紹介します。
① 「あぶく銭」は、将来の自分を一番輝かせる「特別費」にする
臨時収入やポイント、そして戻ってきた還付金が入ったときは、それを「今すぐ使っていいお小遣い」の引き出しに入れて、なんとなくの買い物で消してしまうのをやめましょう。
おすすめなのは、「将来、自分に最高のご褒美をあげるための貯金箱」に、最初から入れてしまうことです。
例えば、年末調整で還付金が戻ってきたら、その日のうちに「新NISAの買い増し資金」や、何年も行きたかった「あの極上温泉への旅行基金」など、目的が決まっている口座にそっくりそのまま移してしまいます。
こうして「なんとなくの消費」を「未来の幸せな投資」へとお金の流れを変えることで、無駄な浪費を防ぎながら、最高にワクワクする形でお金を使うことができるようになります。
② 「パーセント(割合)」ではなく「絶対的な数字」で考える
退職金やまとまった資金が入ったとき、あるいは大きなリフォームや車の買い替えをするときは、全体に対する「割合」で考えるのをやめましょう。
「2,000万円のうちの100万円だから、5パーセントに過ぎない」と考えるのではなく、「自分にとって、100万円とは一体どれだけの重みがあるか」という、絶対的な価値に引き戻すのです。
100万円は、あなたが現役時代に、どれだけの時間と汗を流して稼いだ金額でしょうか。
どんなに大きなお金に囲まれても、常に「いつもの1円、いつもの1万円」の重みを電卓でパチパチと弾き直す。
この地道な姿勢こそが、人生の後半戦で、お財布を最も強固に守る盾になります。
まとめ:すべてのお金に、同じ敬意を。そして、本当に幸せな使い道を

私たちは、お金に色を塗ってしまいがちです。
けれど、お金には本来、色も名前もついていません。お給料の1万円も、戻ってきた還付金の3万円も、まったく同じようにあなたを支え、未来の安心をつくってくれる大切なパートナーです。
脳が勝手に作ってしまう「心の財布」に気づき、その仕切りをそっと外してあげること。
そして、そうして賢く守り抜いた大切なお金は、ただただ口座に貯め込んで生活を小さく縮こまらせるのではなく、「将来の幸せな老後生活のための自己投資」に思い切って、そして誇りを持って使っていきましょう。
ここでの自己投資とは、何も難しいお勉強ばかりではありません。
これからの人生を元気に歩き続けるための「健康(足腰のメンテナンスや良い食事)」、新しいワクワクに出会うための「体験(趣味や旅行、学び)」など、人生の運転手である自分自身を健やかに、笑顔にするために使うお金です。
ただの「節約」で人生を終わらせるのではなく、脳の罠をすり抜けて、守ったお金を「本当に自分を豊かにする最高のワクワク」のために使う。
これこそが、50代からのお金をコントロールし、本当に幸せな老後生活を送るための最大の秘訣です。
「どんな手に入り方をしても、お金はすべて等しく大切。だからこそ、自分の未来の幸せのために、一番価値ある使い方をする」
そう心に留めておくだけで、あなたのお金は、より温かく、本当に必要な場所にだけ流れていくようになりますよ。
次回のテーマは…… 「『みんなが買っているから安心』は赤信号!投資や保険の流行に流される心の仕組み」です。
テレビで話題の株、お隣さんが始めた投資。なぜ私たちは「周りと同じ」だと安心し、そしてそれが時におおごとになってしまうのか?
「群衆心理(バンドワゴン効果)」の罠と、自分だけのブレない軸の作り方をわかりやすく解説します。
それでは、また次回のブログでお会いしましょう。散歩の合間に、ご自身の「心の財布」が今、どんな色分けをしているか、少しだけ覗いてみてくださいね。
【今日から意識したい3つのポイント】
- お金の手に入り方で価値を変えない。お給料の1万も、還付金の1万も同じ価値。
- 還付金はお小遣いではなく、「将来の幸せ」のために準備していたお金が戻ってきたもの。
- ただ貯め込むだけの「節約生活」にするのではなく、健康や新しい体験など「自分の未来を豊かにする特別な投資」に活かしていく。
(第4回へ続く)


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