「年金は早くもらったほうが得なの?」
「制度自体が危ないって聞くけど、どうすればいい?」
そんな不安や疑問をお持ちの皆さんに、あえて「繰上げ(早めにもらう)」を推奨する人たちの切実な本音と、賢い付き合い方を解説します。
年金繰上げ受給「する派」の主張と「しない派」の反論

主張1:「年金制度が崩壊する前に、もらえる分は確保したい!」
今、多くの方が感じているのが「制度への不信感」です。
- 主張の内容: 「少子高齢化でルールはどんどん変わる。将来、受給開始が70歳に引き上げられたり、給付額がカットされたりするかもしれない。国がルールを不利に変える前に、今のルールのままで早く受け取り始めるのが一番の『逃げ切り』戦略だ」という考え方です。
- ここがポイント: 「後でもらって損をする」リスクより、「今のうちに確実に手に入れる」実利を優先しています。
主張への反論:「国が破綻しても、年金は完全にはなくならない」
「日本が潰れるから年金もゼロになる」という極端な意見がありますが、年金財源の約半分は「税金」で賄われています。
もし年金が完全にゼロになるなら、それは国家のあらゆる機能が停止している状態です。その時、早くもらって「現金」で持っていたとしても、円の価値が暴落しているなど、別の問題が発生しているはずです。
つまり、国の制度が完全にゼロになることは考えにくいですが、物価上昇に対して年金の伸びが抑えられる可能性は高いです。早くもらった分を単に生活費で消すのではなく、「自分専用の予備費」として貯金したり、新NISAなどで運用したりして、自分自身で「制度の目減り」をカバーする準備をしましょう。
参考記事:年金が「もらえない」ってウソ?知らないと損する公的年金の真実

主張2:「元気なうちにお金を使って人生を楽しみたい!」
繰上げを勧める人が最も大切にしているのが、「健康寿命」との兼ね合いです。
- 主張の内容: 「70代後半になって受給額が増えても、足腰が弱って旅行に行けなければ意味がない。気力も体力もある60代のうちにお金を受け取り、趣味や孫との時間、今のうちにしかできない体験に投資したほうが人生の満足度が高い」という意見です。
- ここがポイント: お金の「額」よりも、お金を使う「時期(タイミング)」に価値を置いています。
主張への反論:「『使い切る』のは非常に難しい」
もし「楽しみ」にお金を使い果たした後に、予想外に長生きしてしまったらどうなるでしょうか? 減額された年金だけで細々と暮らす「長生きのリスク」に直面します。 年金は「死ぬまで続く定額給付」です。この「一生続く」というメリットを最大限に活かすなら、受給額を減らさない(=繰上げない)ほうが、長生きした際の「心の余裕」に繋がります。
主張3:「投資」の種銭として活用する
意外かもしれませんが、「年金がなくても暮らせる余裕がある方」こそ、繰上げのメリットを最大限に活かせます。十分な資産がある方は、生活に手をつけることなく、受け取った年金をそのまま運用に回すことができます。
- 主張: 「年金で減額される分を、自分で運用してカバー、あるいはそれ以上のリターンを目指す。早く受け取り始めて新NISAなどの非課税枠で運用すれば、複利の効果を長く得られる可能性がある」
- ポイント: 年金を「生活の糧」ではなく、「資産を循環させるツール」として捉えています。
主張への反論:「年金の減額率は、どんな投資商品よりも高い」
繰上げ受給を1年早めると、年金は一生涯4.8%減ります。これを投資の視点で見ると、「4.8%の確実な利回りを一生捨てる」ことと同じです。
現在、世界的な投資(インデックス運用など)でも、期待できる利回りは年4~5%程度と言われています。しかも、投資には「元本割れ」のリスクが必ずあります。 一方で、年金を「繰上げない」ことは、「国が保証する年利4.8%のノーリスク運用」をしているようなものです。この高利回りで確実な「投資」を捨ててまで、不確実な株式市場などに資金を移すのは、効率が悪いという見方ができます。
主張4:「相続・贈与」の原資にする
自分たちが使う必要がないのであれば、早く受け取って、生きているうちに子や孫に還元するという考え方です。
- 主張: 「自分が死んでから遺産として残すよりも、孫の教育費や子供の住宅ローンの援助など、彼らが一番お金を必要としている今、年金をそのまま渡してあげたい。早くもらい始めることで、生前贈与の計画が立てやすくなる」
- ポイント: 家族全体の資産の最適化を優先する考え方です。
主張への反論:「子供にとって最大の親孝行は、親が自立し続けること」
人生100年時代、親が介護状態になったり、100歳まで長生きしたりした際、「親が自分の年金だけで生活し続けてくれること」こそが、子供にとって最大級の経済的メリットになります。 繰上げ受給で一生の受給額を減らすのは、「子供に今小遣いを渡し、将来大きな請求書を残す」リスクを孕んでいます。 今、子供にお金を渡して喜ばれたとしても、将来、親の年金額が少なすぎるために「子供が親を仕送りで支える」ことになっては本末転倒です。
【保存版】繰上げ受給「する派」vs「しない派」の視点まとめ
繰上げ受給には、魅力的なメリットがある一方で、見逃せないリスクも存在します。ご自身の考えに近いのはどちらでしょうか?
| 項目 | 繰上げ推奨派の主張(メリット) | 慎重派の反論(リスク) |
| 制度の不安 | 崩壊する前に「逃げ切り」で確保 | 「一生続く保険」として額を最大化すべき |
| 人生の楽しみ | 体が動く元気なうちに目一杯使う | 受給額を減らさない(=繰上げない)ほうが、長生きした際の「心の余裕」 |
| 資産運用 | 早く受給して投資の種銭に回す | 年4.8%の確実な増額に勝る運用は稀 |
| 家族・贈与 | 子供や孫が今困っている時に渡す | 親が最後まで経済的に自立することが最大の孝行 |
繰上げ受給をするとどれくらい減るの?
【早見表】受給開始年齢ごとの受給率
年齢ごとの受給率はこちらの表を参考にしてください。(実際の手取り額とは異なります)
| 受給開始年齢 | 本来より何年早い? | もらえる額の割合 |
| 65歳 | 0年(基本) | 100%(全額) |
| 64歳 | 1年早い | 95.2% |
| 63歳 | 2年早い | 90.4% |
| 62歳 | 3年早い | 85.6% |
| 61歳 | 4年早い | 80.8% |
| 60歳 | 5年早い | 76.0% |
例えば、本来なら65歳から月々15万円(年間180万円)もらえる人が、60歳(5年繰上げ)で受給する場合は、15万円×76%=11万4,000円となり、月々3万6,000円減るということになります。
「何歳まで生きると損?」損益分岐点の考え方
「早くもらった合計額」が「65歳からもらい始めた合計額」に追い抜かれるタイミングを損益分岐点と言います。
0.4%の減額率の場合、どの場合でも受給開始から「約16年8ヶ月」経つと、65歳からもらい始めた人の合計額の方が多くなります
- 60歳から受給: 76歳8ヶ月までは「早くもらった人」の方が得。それ以降は損。
- 62歳から受給: 78歳8ヶ月までは「早くもらった人」の方が得。それ以降は損。
「自分は80歳以上まで元気でいる自信があるか?」が、一つの大きな判断基準になります。
計算後のチェックポイント
計算してみて「意外と減るな」と感じたか、「これくらいなら今すぐ欲しい」と感じたか、その直感は大切です。
・住民税非課税世帯を狙う: 額を抑えることで、税金や保険料が安くなり、結果的に手元に残るお金が増えるケースもあります。
参考記事:【シニア必見】年金繰り上げで住民税非課税は危険?知っておくべき「211万円の壁」の真実

・ねんきん定期便を見る: 計算の元になる「本来の額」は、最新のねんきん定期便に記載されている「見込み額」を参考にしてください。
参考記事:難しい用語はもう怖くない!【ねんきん定期便】を確認して老後のお金と保険をスッキリ整理する方法

失敗しないための「共通の注意点」
繰上げ受給はメリットも多いですが、以下の点だけは心に留めておいてください。
- 一生、減額が続く: 一度決めたら、将来「やっぱり増やしたい」と思っても戻せません。
- 障害年金などの制限: 万が一の時の保障が受けられなくなるケースがあります。
- 80歳の壁: 一般的に、80歳前後まで生きると「65歳からもらい始めた人」の方が合計額は多くなります。
まとめ:正解は「あなたの価値観」の中にあります

年金をいつからもらうかに「絶対的な正解」はありません。
- 制度が不安で、今を充実させたいなら「繰上げ受給」。
- 長生きのリスクに備え、将来の安心を最大化したいなら「65歳以降」。
年金は長生きのリスクに備える「保険」です。「損か得か」という計算だけでなく、「どんなに長生きしても死ぬまで年金が受け取れる」という「安心感」が大切です。
繰上げ受給には「今を充実させる」という大きな魅力がありますが、一方で「一生の安心を削る」という側面もあります。 制度への不安や、家族への想い、そしてご自身の健康状態。これらを天秤にかけたとき、あなたにとって一番大切なものは何でしょうか?
正解は一つではありません。大切なのは、メリットとデメリットの両方を知った上で、「90歳、100歳の自分も納得してくれるか」を想像して決めることです。
迷ったときは、ぜひ一度、年金事務所や専門家(社労士さんなど)に、自分専用のシミュレーションを出してもらうことから始めてみましょう!


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