昨今、「遺族年金が廃止される」とか「遺族年金が5年で打ち切りになる」と話題になっておりますが、果たして本当なのでしょうか。
現在遺族年金をもらっている方もしくは、専業主婦の方などは不安に感じるかたも多いのではないでしょうか。
ここでは、2025年5月に国会に提出された遺族年金の見直し案について解説します。
この遺族年金の見直し案は、2028年度4月の施行を予定しており、遺族年金が男女平等になる方向での法改正が進められています。これは、共働き世帯の増加や社会状況の変化に合わせて、現在の制度における男女差を解消することを主な目的としています。
結論から申し上げますと、遺族年金制度自体廃止されることはなく、また、現在、遺族年金をもらっている方には減額されるなどの影響はない見直しとなっております。
では、どのように見直しされるのか詳しく説明します。
この記事は、2025年6月現在の内容となっております。より詳細な情報や最新の動向については、厚生労働省の公式発表や各金融機関・専門家の解説などを参照されることをお勧めします。
主な変更点とポイント
子のない配偶者の有期給付化と男女平等化
現行の遺族厚生年金制度では、30歳以上の女性配偶者は子どもの有無に関わらず生涯にわたって遺族年金を受給できる一方で、男性配偶者は55歳未満の場合は受給する権利すらないなど、男女間の格差が問題視されています。
この制度は、「男性が稼ぎ手」「女性は家事」というまさに昭和時代の家族モデルを前提とした設計となっています。
厚生労働省の試算では、2040年までに男女の就業率が同等になると予測されています。
女性の社会進出が進み、共働きが一般的になった現代においては、「妻が亡くなった場合の夫に対する保障も充実すべき」との公平性の観点から見直しが必要となりました。
今回の見直しでは、18歳未満の子どもがいない20代~50代の配偶者について、性別に関わらず原則5年間の有期給付となります。
つまり、改正後は、男性配偶者も、これまで遺族厚生年金の支給対象外だった年齢層でも5年間の有期給付を受け取れるようになります。
年金額の増額(有期給付加算など)
有期給付となる期間中、年金額が増額される「有期給付加算」が創設されます。これにより、現行制度よりも年金額が増加するケースがあります。
これにより、現行制度では亡くなった配偶者の老齢厚生年金の4分の3が支給されていましたが、新制度では5年間の有期給付期間中、満額が支給されます。
具体的な金額は、亡くなった配偶者の加入期間や報酬に応じて個別に計算されます。
「死亡時分割」制度の導入
亡くなった被保険者の厚生年金を分割し、配偶者の老齢厚生年金に上乗せする制度が導入されます。これは、婚姻期間中の年金記録を夫婦で共有するという考え方に基づいています。
死亡時分割制度は、配偶者の老後の生活を支える新たな仕組みです。
婚姻期間中の厚生年金加入記録を分割し、遺族となった配偶者の将来の老齢厚生年金に上乗せされます。
具体的な計算方法は以下の通りです:
- 第3号被保険者期間は2分の1で分割
- 夫婦双方が厚生年金加入期間の場合は、標準報酬月額の合計の2分の1を上限として分割
死亡時分割制度の導入は、特に専業主婦や扶養内パート就労者にとって重要な意味を持ちます。
65歳以降の老齢厚生年金額が増加し、長期的な生活設計がしやすくなります。
さらに、死亡時分割による年金額の増加は、再婚しても受給権が継続します。
婚姻期間が長いほど、上乗せされる年金額も大きくなる仕組みとなっています。
中高齢寡婦加算の段階的廃止
女性にのみ支給されてきた「中高齢寡婦加算」は、段階的に廃止される方向で検討されています。
中高齢寡婦加算は、40歳以上65歳未満の子どものいない妻を対象とした重要な経済的支援制度でした。
2024年度時点では年間約61万2000円(月額約5万1000円)が支給されていましたが、2025年4月以降、新規受給者から段階的に減額されます。
廃止までのスケジュール
施行日以降に新規発生する中高齢寡婦加算は、発生年度に応じて加算額が徐々に減額されます。
受給開始時の加算額は受給終了まで変更されない仕組みとなっています。
廃止完了までは約25年間の長期的な移行期間が設けられており、2050年頃に新規の中高齢寡婦加算が完全に終了する予定です。
現在の受給者への影響
施行日前に受給権が発生している中高齢寡婦加算については、現行の支給額が維持されます。
現在すでに受給している方々の権利は保護され、加算額の減額や廃止の影響を受けることはありません。
収入要件の撤廃
これまであった年収850万円未満という収入要件が撤廃されます。2025年4月からスタートする新制度では、遺族年金受給における収入制限が完全に撤廃されます。
現行制度で設定されていた年収850万円(所得655.5万円)の上限がなくなり、高収入の配偶者でも遺族年金を受給できるようになります。
子供がいる場合の加算額の増額
遺族基礎年金の子供加算額が増額(年額234,800円→281,700円)され、3人目以降も1人目、2人目と同額の加算が受けられるようになります。これは現在受給している方も対象です。
遺族年金制度2025年改正で不利になる人・有利になる人一覧表
区分 | 有利になる人 | 不利になる人 | 影響なし |
---|---|---|---|
男性配偶者 | ・55歳未満の子どものいない男性(新たに5年間の受給資格獲得) ・年収850万円以上の男性(収入制限撤廃) | 特になし | ・60歳以上の男性 ・子どものいる男性 |
女性配偶者 | ・年収850万円以上の女性(収入制限撤廃) ・5年間の有期給付期間中は満額支給 | ・30歳以上の子どものいない女性(生涯給付から5年間の有期給付へ) ・40歳以上65歳未満の子どものいない女性(中高齢寡婦加算の段階的廃止) | ・60歳以上の女性 ・子どものいる女性 ・2025年4月以前に受給権が発生している女性 |
共通事項 | ・死亡時分割制度の導入により将来の老齢厚生年金が増額 | なし | ・施行日前に受給権が発生している人 |
※「子ども」とは18歳到達年度末までの子、または20歳未満の障害等級1級・2級に該当する子を指します。
※制度改正は2025年から約20年かけて段階的に実施されます。
段階的な制度移行で急激な変更を回避
2025年4月からの遺族年金制度改正は、受給者の生活への影響を考慮し、25年間かけて段階的に実施されます。
制度移行における混乱を最小限に抑えるため、きめ細かな経過措置が設けられています。
60歳以上の配偶者は現行制度を維持
高齢者への配慮から、60歳以上の配偶者については現行制度が維持されます。
配偶者と死別した時点で60歳以上の場合、男女ともに生涯にわたって遺族年金を受給できます。
この措置により、高齢者の生活基盤は今後も安定的に確保されます。
既存の受給者への配慮
2025年3月以前に受給権が発生した遺族厚生年金は、現行制度がそのまま維持されます。
生涯受給の権利は継続
中高齢寡婦加算の受給権は維持
年金額の減額は発生しない
制度見直しににより影響を受ける主な対象者は?
2025年4月からスタートする新制度では、子どものいない配偶者の遺族厚生年金受給期間が大きく変更されます。現行制度で女性に認められていた生涯受給の特例が見直され、男女ともに5年間の有期給付となります。制度変更の中心的な影響を受けるのは、20代から50代の子どものいない配偶者です。
特に、以下の条件に該当する方々は、制度改正への理解と準備が重要となります:
- 30代で配偶者と死別した子どものいない女性
- 40代で配偶者と死別し中高齢寡婦加算を受給している女性
- 55歳未満の男性配偶者
世代や家族構成によって受ける影響が異なる点を理解し、個々の状況に応じた将来設計を行うことが大切です。
若い世代ほど、iDeCoやNISAなどの資産形成制度の活用を検討する余地があります。
遺族年金制度改正を見据えた新しい生活設計の構築が求められています。
特に子どものいない20代から50代の配偶者は、5年間の有期給付を5年間の有期給付への移行は、特に若い世代の生活設計に大きな影響を与える可能性があります。
老後の資産形成や就労継続など、長期的な視点での生活設計が重要となってきます。
まとめ
この改正により、男女の区別なく、配偶者との死別という人生の危機に対する支援が実現します。
世界的にも、遺族年金における男女差の解消は40年前から進められており、日本の制度改正は国際的な潮流に沿ったものと言えます2025年から始まる遺族年金制度改正は、現代社会に即した制度への刷新を目指すもので、制度の廃止ではなく、男女平等の実現と社会の実態に合わせた給付条件の見直しが主な目的です。
- 遺族年金は廃止されず、子育て世帯や高齢者への配慮は維持される
- 子どものいない配偶者の給付は、性別に関係なく5年間の有期給付に変更
- 60歳以上の配偶者は現行制度と同様の生涯受給が保障される
- 制度移行は25年間かけて段階的に実施され、既存の受給者への配慮がある
- 若い世代はiDeCoやNISAなどの資産形成制度の活用が重要
- 日本年金機構による個別相談体制の整備と定期的な情報提供が予定されている
この制度改正により、現代の就労環境や家族形態に即した、より公平な遺族年金制度が実現されることが期待されます。
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